ガイドのSさん
朝からガイドのSさんにホテル前まで来てもらった
35年イスラエルでガイドをしているという、かなりの有名な日本人ガイドさんだった
そんなすごい方を一人で独占するという贅沢な機会に恵まれた
Sさんは日差しの強いイスラエルに長くお住まいだからか、よく日焼けしていて動きにスキがない感じだった
私は人見知りもすれば苦手な人も多いという様な厄介な性質なのだけれど、Sさんは不思議とすんなりと馴染めた
35年のベテランガイドさんの為せる技なのか、それか雰囲気や外見や笑い方が私の父に似ているからなのか・・・
メギドへ
イスラエルに到着する随分前に、Sさんは丁寧に日程表を作成して送ってくださっていた
大体一日五ヶ所くらいの場所が書いてあった
メギドhttps://ja.wikipedia.org/wiki/メギド
に向かう車の中でなぜSさんにお願いしたのか、最初は当たり障りないお互いの知人の話などをした
顔を合わせてから言おうと思っていた事を思い切って言ってみた
「あのすごく妙な話をするので申し訳ないのですけれど・・・」
と去年のセドナから自分の身に起こった一連の事を話した
Sさんの相槌は的確で口下手説明下手な私の話を熱心に聞いてくれた
「ここだ、と感じる所に重点を置きたいので、沢山周らずにみたいなそんな感じでもいいですか・・・?」
とおずおずと尋ねてみたら全く問題ないですよ!! と快諾してくれた
とてもホッとしてその辺りでメギドに着いた
メギド要塞
メギドはハルマゲドンの最終戦争が行われる舞台になる要塞だ
ほぼイスラエルの歴史、背景、政治、宗教的な事の知識全方位ゼロなので、Sさんの説明にはあ、はあ、と説明しがいのない相槌を打ってしまった
まず最初に施設内の部屋でメギドについての説明のフィルムを観る
観光客は私一人だけで、私とは離れた所にSさんが座っていた
フィルムが始まってから数分で急に停電した
エアコンも切れた
薄暗くて急に無音になった部屋だけれど、向こうの方から人々が停電したよー的な話しをしている声が聞こえてきた
停電、よくあるんですか? となんとなく沈黙が気まずくてSさんに聞いてみた
「俺35年ガイドやってるけどこんな事初めてよ」
そうなのか・・・
そうこうしている内に電気が復旧し、なんとか最後までフィルムを観る事が出来た
メギドはとてもとても古い歴史のある要塞で、戦いに勝った方が負けた方の要塞を壊してまた新しい要塞を築くので、26層にもなっているらしい
紀元前7000年前とか、気の遠くなるくらい昔からここはあったそうだ
壁に展示されている古代の地図を指差しながら、Sさんが
「古代道路」
と言った
地図はイスラエルを中心に描かれているので、もちろんアジアは描かれていないけれど古代の道路はずっと続いている様に描かれていた
古代道路・・・
宗像大島に行った時、沖の島を遥拝所から視た時に何度視直しても田心姫と呼ばれている神様は、外国人だった
中東ぽい様な・・・
東ヨーロッパの様な・・・
とにかくアジア人には見えなかった
縄文時代後期から沖の島で祭祀が行われていたらしいので、Sさんに古代道路は日本でいうとどのくらいの時期なのか聞いてみた
「そうですね日本だと縄文時代辺りだと思います」
そっかーそうなのかー・・・しかし人種についても造詣が深くないのであの日本人離れした風貌の田心姫様がどの辺りから来られた方なのかここー! と断定する事が難しい
メギドは見渡す限り石石石で人が少なく閑散としていた
私はSさんに自分の視えた文字の様なものを車で見せていた
Sさんは説明板の一文字を指差して、
「この文字なんかさ、さっき見せてくれた字に似てない?」
似てるっちゃ似ているけれど、私が視たものは上下反転した様なものだった
「これはどういう意味の字なんですか?」
「一文字だと神を表すよ」
神なのかー・・・
というボサッとした感想しか持てずに私達はさらに上へと歩いた
ユダヤの人達に与えられた土地は条件の悪い沼地だったという
お金を払ってその土地を買う代わりに、100年所有しても良いという所有権を与えられたユダヤ人達は、まずユーカリの木を植えた
ユーカリの木は水をよく吸い上げてなおかつ感染症の原因となる虫をよける効能もある
私はのどかな田園を見ながらSさんの話を聴き、古代のユダヤ人の豊かな知恵に感心していた
さらにメギドの頂上に行く
「ここはね、戦いに使う馬を管理していた馬小屋と言われている場所なの。なぜ馬小屋かと言われているかというと、ここに餌を入れておく台が並んでいるから」
小高い丘の様な所に出た瞬間に馬の匂いがした
馬事公苑の様な匂いだった
「当時の馬は今のサラブレットよりも随分小さい体をしていたと言われているけれど、にしても餌台の間隔が狭すぎるから果たして馬小屋だったのかと疑問視する意見もある」
いや、馬はいた
馬はいたけれど戦い用ではないかも知れない
そして小さい動物の雰囲気もしたので、
山羊や羊みたいなものもごちゃ混ぜで飼っていたのではないのだろうか
穏やかな雰囲気がする
戦闘用の馬の育成とかそんな感じはない
とSさんに言うでもなく呟いて、Sさんはふーん、まあ推測や想像の域を越えないけれどね、と言った
それからお水を確保したという手堀りの地下水路に入る
カエルとかいますかね?! カエル大丈夫ですかね???!!!!
としつこくSさんに言ったら、根負けして一緒についてきてくれた
私一人だけ行かせてその間に車を近くにつけるという計画だったらしいけれど・・・申し訳ない・・・
私達は手で掘ったらしいトンネルを渡って地下の湧き水へと向かった
「水源がどこにあるのかなんてわからなかったはずなのに、まるでもうここにあるのを知っていた様にまっすぐ掘ってきてるんだよね。なんでかな」
とSさんが私を試す様な、誘う様な疑問を投げかける
こういう誘いは楽しい
「最初に巫女の様な女の人を使って水源を探させているはずです。当時巫女的な存在の女性はいましたか?」
Sさんは頷く
「ここを掘る人達は五人〜十人の男の人達。上半身裸です。彼らは暗闇でも目を使う必要があったから何日間に渡り特別なトレーニングをする必要がありました。暗闇で何日か過ごすとか、そんな感じのトレーニングです。その後にこの地下水路を掘りました。まず一人目がアタリをつけて大体の大きさをノミの様な道具でカンカンカンとざっくり掘ります。一列に並んでいて、次の人がまたノミで打つ。次の人が・・・とそれを繰り返して一人が負担する労力を軽減させていたはずです。彼らはここを掘る時に歌を歌っていました。祈りを捧げる様な、自分達自身を鼓舞する様な、静かで落ち着いた歌です」
とトンネルの上を触りながら、Sさんを振り返って視える事を伝えながら、興奮気味に話した
まず日本と全然違う事にびっくりした
最初は巫女の力を借りながらも、とても合理的で理に適っている
ラビと話す
次に私達はベート・シェアリムに行った
私が行きたいのですが、三日間の内どこかで行けますか? とSさんに尋ねて三日間の中に組み込んでもらったのだ
ここに来たかった理由は、墓地がありその墓地に複数の古い言語が記されたものがあると聞いたからだ
たまに視える文字に、似ているものがあればどの時代に自分が繋がっているのか知る事ができるかも、と期待した
墓地は想像したものと少し違っていた
最初に行った墓地は、80センチ四方の石で出来た扉が開いていて、中が覗けた入り口に鉄格子が嵌っていた
覗き込んでみようとしても、ものすごい数のハエがいてちょっと怖かった
もちろん何千年も前の墓地なので何か腐ったものはないわけだが、ハエは湿度と涼しさを求めて墓の中と外を行ったりきたりしていた
ハエがあまりいない扉の前にしゃがんで、中を覗き込んでみた
扉にはまるで銅鏡のあの突起みたいな、天香山で視た円錐に似ているものが扉についていた
いずれも全て五つずつついていた
Sさんは字と数字は変換可能で、それぞれ意味を持つんだよと教えてくれた
「5はどんな意味ですか」
と聞いた
「神だよ」
先ほどのメギドと一緒ではないか・・・
と思っていると、暗闇のお墓の中に背の高い男の人が立っていて、
トーガ? みたいな布を片方の肩にかけていた
Sさんはここに墓地を作る事が出来た人達はお金持ちだ、と説明してくれた
「私は幸せ者だ。最期は病気だったけれど天寿を全う出来た」
そんなイメージをその背の高い人は送ってきた
ちょうどその時、大判のストールを巻いていたので、当時(ってどの当時なんだろう)はこんな感じの服装ですか? とトーガ風に自分で体に巻いてみてSさんに確認した
そして当時は戦いで死ぬ事が多かったのでしょうか?
と尋ねてみた
Sさんはそうかもね、と言った
私はSさんの冷静な返しが落ち着いていて、あまりこちらに合わせようとせずに責任持って言ってる様に響いたので、旅行の間は冷静な返答をされるのが結構好きだった
「一番大きいお墓に行きましょう」
とSさんが促して、私達はとても大きな扉の入り口があるお墓に移動した
ここ入れるんですか? 入れるよと簡単な会話を交わして私はずんずん中に入って行った
このお墓にも五つの円錐がついていた
中はとても広くて沢山の石で出来たお棺があった
Sさんが一番奥に案内してくれた
奥には、お棺はなくて石で出来た二つの花壇みたいなものがあった
「ここはユダヤ教で一番偉いラビが葬られたとこ。でもちょっと変わっていて、娘さんの方が先に亡くなったから娘の隣に葬って欲しいと遺言を残したので、二人で葬れる様にしたんだって」
「ラビってなんですか?」
「ユダヤ教の最高指導者」
という会話をしているとここに葬られた当時の姿が見えた
男の人は仰向けで、手を重ねておへその下くらいに置いている
白い布に黒い模様のあるものに包まれている
三本のトゲみたいな模様だ
「ラビの包まれている布の色は白地に黒と決まっていますか?」
「そうだね」
即答である
あとでいちいち視えたものを調べなくても話が早い
Sさんは生き字引だ
奥には確かに女の人がいて、光沢とハリのある無地の布で包まれていた
髪の毛も黄色っぽい金色っぽい感じだけれど、頭を覆うベールかも知れないなあ・・・なんて思っていると
「女の人は違っていて、当時は亜麻色の布だったらしい」
と私が色をSさんに言う前に教えてくれた
なんて話が早いんだ・・・と感動していると、ラビさんがある事を伝えてきた
なんだか、隣にいる若い女性は娘以上だというのだ
「娘以上の関係と言ってます」
あとはユダヤ教の教義のイメージも伝えてきてくれた
思っていたより、とても学問ぽい、知識や哲学を基にした教えみたいだった
Sさんに確認するとそうだね、と即答した
ああ、話が早い・・・
自分は沢山の徒弟に囲まれて信奉されていた
自分自身も努力して沢山勉強をし、最高指導者になった
地位が高くなればなるほど、人間的な感情を周囲の人々に漏らすのが困難になった
だからせめて死んだら、人間らしい感情を表してもいいのではないのかと思った
要するに、娘ではない愛する女性の隣に葬って欲しいと彼は遺言をした様だ
Sさんにラビさんが伝えてくる言葉をそのまま言うと、
「そんな事もあるかもね」
とクールに言った